映画において史実は
体系的に描かれがちですが、
本作では
カメラを執拗にサウルへ向け、
そして離さないことにより、
ホロコーストが個人的な物語
として語られます。
アウシュビッツの実情が
サウルの行動範囲内でしか
描かれないので、
部分から全体を推し量る
ことしかできません。
多くの作品が
歴史的な醜行を情感に訴え、
声高に反省を請う一方、
本作はそういった事実を
密やかに語りかけてくる
といった感じで、
描き方にも好感を覚えます。
しかもある種の「わからなさ」
がつきまとう鑑賞中の気分は、
収容所にいた当事者の感覚を
うまく疑似体験させている
のではないかとも思いました。
何より本作の凄みは
被写界深度を浅くして背景をボカす、
さらにスタンダードサイズで
世界を小さく切り取る
「見せない」演出にありますが、
少ない情報から察するだけでも
世界観が相当に綿密に
作り込まれているように思います。
それをあえて
「見せない」なんて、
なんと贅沢な演出でしょうか!